平成21年度:SPG膜を利用したビール精密ろ過技術及び、ろ過ビールの開発

環境リサイクル技術開発支援事業

SPG膜でろ過することですっきりとした味わいを実現した『穂倉金生』

従来のろ過方法では冷蔵でしか流通できなかった自慢の地ビール。独自のろ過装置を開発することで、常温流通が可能となり、販路が急激に拡大しました。

無ろ過ビールならではの苦悩

行縢山の花崗岩から湧き出す良質な天然水を使った『ひでじビール』。もっとたくさんの人にその味を知ってもらいたい、そしてビール酵母のろ過行程で生じる廃棄物をどうにかしたい。そんな思いから、新しいろ過装置の開発に取り組みました。
「酵母が残っているビールを常温で置いておくと、酵母の自己消化によって品質が低下してしまうので、冷蔵で流通させる必要があります。
大手ビールメーカーでは、珪藻土によるろ過の後、マイクロフィルターによる精密ろ過を行い、完全にビール酵母を除去しているのですが、マイクロフィルターを導入するには多大なコストが掛かるため、小さな地ビールメーカーではなかなか導入できないんですよ」とビール事業部の梶川悟史統括部長。

これまでにないろ過装置の開発

SPG膜ビールろ過装置。SPG膜は、汚れたり、目詰まりしても、焼成することで何度でも新品同様に再生可能です。

酵母入りであるがゆえ、冷蔵での流通を余儀なくされていた無ろ過ビール。市場をさらに拡大していくためには、常温で流通できるビールが必要でした。そのために開発されたのが、SPG膜ビールろ過装置です。
SPG膜は宮崎市にあるSPGテクノ株式会社が製品化した九州に広く分布する火山灰シラスを利用した多孔質のガラス膜で、ナノ単位までの精密ろ過が可能です。今回完成したろ過装置は、長さ500mm、細孔径3μmのSPG膜が36本内蔵されています。
「このろ過装置によって、ほぼ100%の酵母を除去することが可能になりました。処理能力も1時間で約1,000リットル、しかも醸造用タンクから製品タンクに全自動でろ過できるなど作業効率も優れているんですよ」

「ろ過地ビール」で新たな事業展開へ

SPG膜ビールろ過装置によってろ過された商品

このSPG膜ビールろ過装置によって誕生したのが、高原町産の麦を使った『穂倉金生』。それまでの無ろ過ビールと比べて、清涼感のあるスッキリとした味わいで、「International Beer Competition2012」(国際ビール大賞)のジャーマンピルスナー部門で金賞を受賞しています。
「ろ過スピードや精度が上がり、流通条件を気にする必要がなくなったことで、さまざまな事業展開を考えられるようになりました。これからが楽しみですよ」と梶川さん。
現在では、穂倉金生を筆頭に、SPG膜で処理したさまざまなビールを展開しています。

まだまだ伸びしろがある「ろ過地ビール」。視線は海外へ

今後のビジョン

「創業時からの商品である無ろ過ビールは、今でも変わらない人気があります。
ただ、飲食店の冷蔵スペースには限りがあるので、一度に出荷できる数が限られてしまうんですよ。販路拡大を考えると、やはりろ過ビールの開発が必須でした」と語る梶川さん。
ろ過ビール第一号として誕生した『穂倉金生』により、それまで冷蔵流通がネックとなって獲得できなかった販路はどんどん拡大。今では、『穂倉金生』以降に発売された銘柄を合わせて、総売上の4割を、SPG膜ビールろ過装置によるろ過ビールが占めています。ちなみに販売を開始した平成24年には3,200本だった『穂倉金生』の売り上げ本数は、現在では年間2万本と約6倍に伸びています。
しかし、梶川さんはこの現状に満足していません。
「常温で流通できる地ビールは、まだまだ伸びしろがある分野なので、どんどん力を入れていきます。SPG膜のろ過装置によって、海上輸送にも耐えられる品質強度を獲得でき、海外輸出にも目を向けられるようになりました」

【この事業を通じて】
「従来のろ過装置では、ビール酵母を吸着した珪藻土を産業廃棄物として処理しなければなりませんでしたが、SPG膜にすることでそれがなくなりました。環境面においてもこの装置が果たす役割は大きいですね」と梶川さん。
SPG膜ビールろ過装置の開発が、同社の事業展開への大きな転機になったようです。

企業概要

宮崎ひでじビール 株式会社 企業外観宮崎ひでじビール 株式会社
宮崎県延岡市行縢町747-58
電話:0982-39-0090

平成8年、延岡市に位置する祖母傾国定公園・行縢山の麓にひでじビール醸造所として設立。「ひでじビール」の名は、設立者である故・西田英次氏に由来しています。
高品質な商品を製造するため、地ビール業界では珍しいビール酵母自家培養技術を取り入れるなど、宮崎の大自然をイメージしたビール・発砲酒の製造、販売を行っています。

更新日:2023/03/11担当:新事業支援課